京都新発見サイト 逸都物語

ホーム arrow みさとみちくさ arrow 九月~宝泉院(ほうせんいん)と秋海棠(しゅうかいどう)
九月~宝泉院(ほうせんいん)と秋海棠(しゅうかいどう) プリント メール
作者 たきねきょうこ   

秋海棠(しゅうかいどう) 日差しがやんわり色味を薄めて、朝夕のしのぎやすさに応えるように、庭や路地裏のあちこちで鉦叩きの羽音がひっそりと響きだして、九月、長月の到来。
まだまだ街中ではかすかな吐息ほどの秋の気配も、北へ上がっていく程に確かさを増していくよう。左京区・大原の里には、もう秋海棠の花が揺れています。
三千院の奥、勝林院(しょうりんいん)からまだ山際を左に折れた宝泉院の庭にも、秋海棠は蹲(つくばい)の脇や池のまわりを淡紅色の花で縁取っては、細い枝先を秋風にたわませています。

 秋海棠は中国原産の多年草で、私たちの国へは寛永年間(1624~1644年)に渡来したといわれ、「花壇綱目」にもその名が見受けられます。現在はベゴニアの名でも親しまれていますが、これは西洋で盛んに栽培された園芸種で、秋海棠とはまた区別されているもの。原産国中国では秋の花「九種」のひとつとして、今でも大変人気が高いのだとか。
宝泉院の庭 日陰の湿地を好むためか、大きな葉と赤みを帯びた細い枝を幾つも伸ばして水に映るその姿が人々に愛され、次第に社寺の川際や池の端などに植えられ増えていったようです。
そういえば私の生家の猫の額ほどの庭にも、手水鉢の脇に秋海棠が秋ごとに花をつけてくれましたっけ。祖母に言いつかって手水鉢の水を替える度、大雑把にまいた柄杓の水に楕円形の蕾が揺れて、それがまた楽しくて、可愛くて。
その可憐な花は食用にもなるのだそう。また、茎や葉のしぼり汁は皮膚病に効能があることから、昔の人々は殺菌剤としても重宝したのだとか。

 この秋海棠に彩られた宝泉院は、天台宗勝林院の塔頭で実光院(じっこういん)とともに、法要儀式に用いる仏教音楽「声明(しょうみょう)」をつかさどる寺院として創建されたと伝えられています。
今も声明の音律を調べる石盤(サヌカイト)が保存展示され、実際の音色を楽しむことも出来ます。また、庭園と借景の美しさも見事で、江戸中期の作といわれる「鶴亀庭園」の他、樹齢七百年を数える「五葉松」が枝を広げる「額縁庭園」も、おごそかな静けさに溢れた名庭として有名です。

 どちらの庭にも秋海棠はひっそりと秋の露をしたためては花を震わせて水辺を彩り、文字通り緑陰に花を添えています。大原の一足早い、秋の風に揺られながら。

宝泉院山門

宝泉院(ほうせんいん)

説明 御本尊は阿弥陀如来。書院は伏見城中で自決した徳川の武将達の供養のため、その床を血天井としてお祀りされていることでも有名です。また庭園はその美しさからJRのポスターに取り上げられたことも。紅葉の名所としても知られ、その時期は、声明が響き、お香が薫る中、ライトアップも催されています。
拝観時間 9:00~17:00
住所 京都市左京区大原勝林院町187(Googleマップで表示
交通 京都バス「大原」下車 徒歩10分
備考 詳しくは公式ホームページ

 
< 前へ   次へ >