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九月~お月見とおはぎ プリント メール
作者 たきねきょうこ   

大覚寺の観月祭 またこの日、月明かりに美しく彩られる社寺のあちらこちらで、観月の行事が催されます。平安時代以来、月の名所として名高い右京区の大覚寺では、前日の待宵(まつよい)と併せて二日間にわたって、観月の夕べが行われ、多くの風流人でにぎわい立ちます。
 水面が夕闇に染め付けられる午後五時半頃、大沢池には龍頭船(りゅうとうせん)や、鷁首船(げきしゅせん)など4隻の観月船が、天神の島影近くまで漕ぎ出されます。また、境内の五大堂では、満月法会が営まれ、献花に彩られた月光菩薩も、月の出を待つ人々のささやき声と琴や尺八の樂音に、密やかに耳を傾けていらっしゃるようです。

 この他にも左京区の下鴨神社では、名月管弦祭が催され、平安装束を身に着けた楽人の、舞楽が、管弦の音に合わせて、奉納されます。また、観月の名所とされる嵐山や広沢池、また宇治川縁などのそこここでも、名月を愛でる行事が営まれ、お月見を楽しむ人々が集いあいます。
 天神さんの名で親しまれている、上京区の北野天満宮では、芋茎(ずいき)と栗、里芋などをお供えすることから芋名月と呼ばれる名月祭が催されます。ちなみに、同じアジアの台湾では、儀式用に収穫したタロイモに、すすきをさして、魔よけにするのだかとか。
 実りの恵みを喜び、自然の恵みを尊ぶいにしえ人の、素朴な感謝の祈りも、また、月への信仰心の礎のように想われます。

 そして、お月見台の上のすすきのかたわらで、可憐な花を揺らして、たわむ萩の花。
 もう少し秋が深まりお彼岸になると、決まっていただく甘いおはぎは、あの小豆のつぶつぶが、萩の花に似ているからこう呼ぶのだとか。そういえば、また、形がぼたんの花に似ていることから、春のお彼岸にいただくときは、ぼた餅というのだそう。
 季節によっての呼び名はいざ知らず、もち米をまぜたご飯を軽くついて、手ごろな大きさに丸め、あんこや黄粉でくるんで、せいろで蒸し上げたこのおはぎは、少し前まではどこのお家でもお彼岸に作られ、お供えのお下がりも待ち遠しくよばれたもの。
 小豆や黄粉だけでなく黒ごまや青のりでまぶされた色とりどりのおはぎを、おまんやさんで買うようになった今も、小豆の粒を幾つもくっつけながら、おはぎをほうばる息子の姿は、幼かった頃の私のうつし絵そのもの。
 そして、やがては綿々と引き継がれてきたつつましい慣わしごとのなかに、ありきたりのすこやかさを願う、埋み火のような祈りが熾り続けていることに気付いて、その重さにたじろぐこともあるのでしょうか。・・・この小さな黄粉だらけの掌は、いつか。

 たわいない子供たちのおだやかな暮らしが、今年も、そしてこれからも、すこやかに続いていきますように。
 燕は、来年もあの軒下の巣穴で、つつがなく雛鳥たちをはぐくむことができますように。
 そして、中秋の大きな丸い月がその永々とした営みを見守りながら、今年も美しく天空に照り映えますように。



 
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