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三月~おひなさん プリント メール
作者 たきねきょうこ   

 ところでこのおひなさま、関東とは逆に京都では右に男雛を、左側に女雛を飾ります。
 これは、中国の唐の時代からの「左上位」(ひだりじょうい)の文化が平安期に伝わり、男雛を位(くらい)の高い左側(向かって右)に据えたことによるものだそう。今でもお芝居の舞台左手を「かみて」、右を「しもて」と呼ぶのも、この名残なのだとか。
 それじゃ、関東風の右に女雛の飾り方は、今風の女性上位によるものかしらとうがってみましたが、これは昭和天皇の御大典(ごたいてん)時の立ち姿の位置によるもので、それにならったのが関東流、平安時代以来の飾り方を、今も京都人らしい意固地(いこじ=いじっぱり)さで守り通しているのが京風、ということになるようです。

ばらずし

 守り継ぐといえば、京都の「おひなさん」には、またたくさん守り続けられた美味しい取り決めごとがあります。

 その、まず最初は、大きな寿司桶に山と作られる「ばらずし」(ちらし寿司)。
 このばらずし、ちらし寿司のように生身のお魚は使わずに、ちりめんじゃこと、もどして甘辛く炊いた干ししいたけ、それにかんぴょうを酢飯に混ぜ込んで、きんし卵や木の芽、きざみ海苔で、その上を飾りつけたもの。つくられる家々で、味付けや飾り付けが微妙に違っていて、我が家の「ばらずし」は甘党の祖母の好みからか、少し甘めのお酢のご飯の上に、卵好きだった母の作ったきんし卵が、山のように盛られていましたっけ。

 このばらずしに添えられるのが、先の「身しじみのたいたん」や、赤貝やとり貝の入ったおてっぱい(ぬた)です。
 さっとゆでたわけぎに貝類をあわせて、からし酢味噌であえたもので、春の香りいっぱいの一品ですが、幼い私には、どうがんばっても美味しいとは思えず、残しては祖母に叱られることしきり。それが今では、からし酢味噌の旨みに、涙目になりながら、「春のけだるさには、やっぱりこれが一番やわ」などとうそぶきながら、お箸の止まらない言い訳にしている、厚かましさ。



 
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