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三月~おひなさん プリント メール
作者 たきねきょうこ   

 その他にも、「おひなさん」のときだけ売られる、手のひらサイズの小さな「ひな板」は、小さなかまぼこの上に手書き友禅のような模様を描いた可愛らしいお祝いもので、いただくのがもったいないぐらい、愛しげなものばかり。小さなだし巻きも添えて、まるで、ままごと遊びのようなお祝い膳は、みんな子供らのすこやかな育ちを祈る、大人たちからの心づくしのたまものです。

ひな板

 そういえば、「おひなさん」に欠かせない桃の花も、邪気をはらう霊力の強さとたくさんの実をつける豊かさが、女の子たちの末久しいさいわいを祈る花木とされ、三月三日を「桃の節供」と呼ぶゆえんとなっていったよう。
 中国の三千年に一度だけ実を結ぶ「三千桃」(さんぜんとう)の持ち主、西王母(せいおうぼ)も、三月三日が誕生日なのだとか。この仙桃(せんとう)を口にすると、不老不死が約束されたと伝えられています。
 また晋の時代、武陵(ぶりょう)の漁夫が垣間見たとされる、病いも無く、戦いもない桃源郷は、千々に咲き乱れる桃の花々の、そのまた奥にあるのだとか。春の光をまぶしばかりにまとって、あやうい白昼夢のように咲き誇る桃の花には、確かに人々の畏敬を集め、種々の伝説を呼び起こすたぐいの魔力が、秘められているよう。

 北区の上賀茂神社でも、三日、桃花神事(とうかしんじ)が営まれます。これはご神前に桃の花とこぶしの花をお供えして、御祭神に春の訪れをお知らせし、節供を祝う神事で、神殿内で今も、厳かに執り行われています。

 桃の香りに促されて、やおら春の支度に片膝立てる八百万の神様たちにも、雛壇の前でこぼしたひなあられを、小さなつたない手で拾い集める子供たちにも、春は百花繚乱の花々を打ち開かせながら、すべてを包み込むように様相を一変させていきます。

 いよいよ春本番。季節の贅沢な模様替えを、今年も驚きをもって、ゆっくり見落とさず、ひとつひとつを楽しみごとにしていけますように!

桃の花



 
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