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四月~やすらいさん プリント メール
作者 たきねきょうこ   

 やがて社殿の前に戻った行列は、再びやすらい踊りを乱舞して、花傘に宿した祟りなす霊たちをお社に追い込めては、「今宮社(いまみやしゃ)=今宮とは新しく生まれた霊の意」の一員として招き入れ、今度は御霊(ごりょう)として手厚くお祀りしていくのです。いにしえ人の鎮魂(たましずめ)の手際の良さに、現世(うつしよ)でも惑い気味のこちら方は、見事な手腕と手立てに感心することしきり。

安良居(やすらい)の 花傘ぬらすほどの雨
雨城


 このやすらいさんをはじめ、京の春のお祭りにつきものなのが「さば寿司」です。

 ちょうど春のさばの美味しいこの季節、昔はどこのお家にも木枠でこしらえた押し寿司用の型があって、お祭りの日には朝から、お知り合いや親戚に配り歩いたもの。
 このさば寿司、お酢をうった木枠にまず竹の皮を敷いて内側を覆い、そこにお昆布のお汁(だし)だけで炊き上げて、合わせ酢をしてからさました酢飯を、均等に詰めていきます。その上に、今度は三枚におろしてお酢にあわせたさばを敷き詰め、最後にお昆布を広げて、引き出し式の上蓋の上から重石を置いて一晩寝かせてなじませると、翌朝には竹の皮の香りもすがしい、程よく身の引き締まったさば寿司の出来上がり。
 家で作ったさば寿司は、酢飯の量も多く切り目も大きくて、どことなく垢抜けません。けれど作り手の祖母の人柄に似てか、少し煩わしくて、それでいて暖かい、普段着の暮らし向きそのままの、もっさりとして最高に贅沢な味わいを、かもし出していたもの。

さば寿司

 今年の「やすらいさん」では、娘の同級生や友人の息子さんを、お練り衆の笛方でたくさん見かけました。いつもとは少し違う神妙な顔つきで、また各所でいただいたお菓子で重たくなった袂で、それでも一生懸命、和笛を吹いている姿は愛らしく、またとてもりりしくて思わず笑みがこぼれます。
 女の子が行列に参加できないのが、さも悔しげなウチの娘は、来年は是非、弟にやらせようと意気込み盛んに息子をこれまた一生懸命、お菓子をサカナに口説いているのですが、両者の駆け引きの巧みさの、なんとも言えず面白いこと!

 残り花をなお散り急がせる迷子の精霊たちが、今年もちゃんと花傘を見つけてはもぐり込んで、今宮の御社で、御霊(みたま)として安んじることが出来ますように!

 そして、笛方や子鬼をつとめるまだまだつたない子供たちが、すこやかに長じていけますよう、今宮社の鎮守の森の高みから、見守まもってやって下さいますように!



 
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