五月~貴船川と卯の花 |
作者 たきねきょうこ | |||||||||||
ここ二、三日の雨模様に新緑はいっそう色を深めて、見わたせばもう山際は初夏の気配。 「卯の花の匂う垣根に、ほととぎすはやも来鳴きて・・・夏は来ぬ」 佐々木信綱作詞の懐かしい唱歌通りにひっそりと香りながら、川面すれすれまでたわむ卯の花のすぐ横には、もう涼やかな川床がしつらえられています。 卯の花飾りの川岸を右手に杉木立の巨木の緑したたる参道をたどっていくと、貴船神社の奥宮が見え隠れしてきます。 その昔、神武天皇の母・玉依姫(たまよりひめ)が雨風の源を求めて「黄船(きふね)」に乗り、淀川から加茂川をさかのぼって貴船川の上流に祠を営み鎮座ましましたのが、ここ貴船神社の奥宮の由来と伝えられています。 貴船口から奥貴船までを彩る卯の花も水気を好むユキノシタ科の落葉低木で、また夏の到来を告げる「ほととぎす」との取り合わせが古来より好まれ、両者を詠み込んだ歌が万葉集にも十八首、残されています。 正式名は「空木(うつぎ)」。これは旧暦四月の卯月に花をつけるからとも、成長した枝の中心が空洞になることから由来するともいわれています。また材質が硬く、木釘として使われたことから「打木(うちぎ)」にちなむとの説もあるのだとか。 しららかな卯の花は、貴船の濃密な水蒸気を小花ひとつひとつにたくわえ込んで、円錐状に咲きたわまんばかり。まるで、この地を棲み処に定められた雨の神や水の神、そして雷神や鬼神に今も愛でられ、言祝がれているかのようです。
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