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十二月~冬至のおかぼと柚子 プリント メール
作者 たきねきょうこ   

 冬至には、もうひとつ、「こんにゃく」を食べると良いという、言い伝えもあります。
こんにゃくには、「砂払い」といって、身体にたまった砂や毒気を吸収して排出する力があるといわれ、奈良時代に伝わって以来、整腸剤として薬効が認められていました。また僧侶が好んで食したことから、一年のうちにたまった煩悩をも洗い流すとして、冬至の日には、輪切りにしたタカノツメを入れてかつおだしで炊いたり、七味唐辛子でからめたり、おだいこ(大根)と一緒に短冊に切って白和えにしていただいり。
「砂下ろしやさかい、よばれとき」と、口やかましいほど祖母に促されて、おてしょ(小皿)によそってもらった孫娘は、今も大のおこんにゃ(こんにゃく)好き。初冬から、幾度もお膳(食卓)飾る懐かしいおばんざいたちです。

 また京都では、折れた縫い針を小箱に入れて貯めておき、こんにゃくやお豆腐にさしてねぎらうというやさしい風習がありました。
今も嵐山の法輪寺では、十二月八日に「針供養」が営まれています。これは、法輪寺の御本尊、虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)が、技芸の守護神であることから、平安時代、清和天皇が、裁縫道の総司所を置いたことに由来しています。和装の街「西陣・室町」をひかえた京都の和装関係者らから今も厚い信仰を集め、着物姿の参詣者でその日、お寺は、終日賑わい立ちます。

針供養

 そして、冬至の締めくくりの立役者は、なんといっても柚子。
街のお風呂屋さん(銭湯)にも、冬至間近になると「柚子風呂あります」の札が掛けられ、丸ごとや半分に輪切りされた柚子をいっぱい入れ込んだ大きな木綿袋が、湯船に浮かべられますし、家々では、それぞれに買い置いた柚子を支度して、柚子湯の甘酸っぱい香りとぬくもりを楽しみ合います。

 この柚子、チベットや中国奥地原産の常緑喬木で、朝鮮を経て奈良時代に渡来したといわれ、酸味が強いことから「柚酸」=「ゆず」と呼ばれるようになっていったのだとか。
加熱しても香りが失せないことから、料理にも珍重され、春の山椒とともに、季節を香りたてる二大香料として、古くから盛んに用いられ、京料理にもなくてはならない薬味となっています。
また、黄色い柚子の実には邪気を祓う霊力があるとされ、冬至の日に柚子湯に入ると、風邪を引かないとも、あかぎれやしもやけが治るともいわれています。
そういえば、黄金色のかぼちゃも、魔除け・災難よけにと用いられたのだとか。これは、中国古来の「天地の間をめぐる気」の哲理・「五行説」のなかで、黄色は邪を払い、疫を防ぐ強い力を持つ根本とされたことからのよう。
冬至にいただくかぼちゃも柚子も、実は、天空で黄色の光を放ち続ける太陽の象徴で、人々は日一日と復活していく太陽それ自身を、身のうちに取り込み、身を清めて、これから少しずつ、しかし確実に春へと向かう自然のよみがえりとともに、自らの「再生」をも願い、祈ったのではないでしょうか。

 もうひとつ師走の風物詩・・・そろそろ、薄黄色のロウバイの咲き初める北野天満宮(てんじんさん)は、二十五日「しまい天神」の賑わいに、埋め尽くされることでしょう。

天神さん本殿の蛙股 この本殿の蛙股(かえるまた)には、かぼちゃが掘り込まれているのをご存知でしょうか。
豊臣秀頼の命を受け、片桐勝元が奉行となって建立したこの本殿には、美しく意匠化された菊座南瓜(きくざかぼちゃ)とその葉が、重厚な桧皮葺(ひわだぶき)の屋根をひっそりと、そしてしっかりと五百年近くも支え続けているのです。

 

 渡来して間もなかったこの野菜をいったいどんな匠が、お社の表構えといえる蛙股に刻んだのでしょうか。自由で奔放な桃山人の創作への心意気が、まさに踊りだすよう。

老梅(ろうばい)
そういえば、昔よく、生家の手水鉢にお隣のロウバイの花を散らして、遊んだもの。
紙細工のように軽くて、うつむきがちなこの花の蔭をお風呂場の窓から眺めながら入った柚子湯の、今思えばなんと贅沢だったこと。
そして、今、子供たちと柚子袋を取り合いっこしながら入る柚子湯も、またひとつの至福。

 

 来年もまた、おかぼは甘く味を含み、柚子は甘酸っぱく香り立ちますように。
そして、誰も彼もがみな、つつがないお年越しをすることができますように。

 これからもずっと、先人の知恵と工夫にあふれた京の「洛々祭菜」を、私たち大人がこれからも大切に守り続けていくことが出来ますように。



 
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